お燗酒プロローグ
酒を温めるお燗酒は、腸内での吸収が早く、結果、脳で「酔い」を感じるスピードが冷酒より速くなります。逆に冷酒は腸内での吸収が遅く、脳で「酔い」を感じるまでに過剰な摂取をすることが多く、結果、肝臓
でのアルコール分解にも時間を要することに繋がります。
元来日本酒には血管収縮防止効果のあるアデノシンが他の酒類より多く含まれていますので、温かいお燗酒をゆっくり飲むことで、ストレスによって収縮した血管を拡張し、ストレスを解消してくれるリラックス効果も期待できます。
お酒を温めて飲む習慣は、平安時代からあったと言われますが、一般庶民にまで普及したのは、実は幕末から明治にかけてだそうです。秋に出荷される「ひやおろし」と「燗酒」は相関関係にあります。というのも、夏を無事に蔵内で越し熟成した酒が旨いとされますが、かつては肌寒さを感じるようになる10月から11月にかけて、下り酒として江戸に運ばれた、その「ひやおろし」を燗につけて飲むのが粋とされていたこともあったようです。
江戸時代とは暦も異なりますし、温暖化の進んだ現代で「夏を越した酒」をお燗酒に直接的に結びつけるには、些か季節感が失われている感も否めませんが、ひととおり「ひやおろし」が市場に出まわった後には、
気温も下がり、燗酒を飲みたくなるような食材も増えてきます。
「酒は純米、燗ならなお良し」とは、尾瀬あきら氏が描いたコミック「夏子の酒」で登場する元鑑定官・上田久先生のモデルにもなった故・上田浩氏のお言葉です。かつては「安酒は燗して余計なアルコールを飛ばすんだ」とか「燗冷ましは不味くて飲めない」など言われたこともあり、居酒屋に行っても酒燗器で温めた銘柄記載のない「お燗酒」というメニューしかない時代が現実には現在も継続しています。
以前は純米=冷、本醸造=お燗という図式が一般論としてありましたが、味のある純米酒をお燗にすると確かに美味しく味わい深いものです。世に「純米党」が数多く存在しますが、純米酒でなくとも、安価で、しかも美味しいレベルの高いお酒は数多く存在します。また、そういったお酒は「燗冷ましがまずい」と言うこともありませんし、アルコールを飛ばしてしまうほど熱くする必要もありません。
一般的に乳酸などを含む酸度の比較的高い酒が向くとされています。乳酸などは温旨酸と呼ばれ温めると旨味がますと言われます。山廃などの生もと系のお酒がお燗に向くとされるのはそう言った理由からですが、速醸系でも、甘酸苦渋辛の五味のバランスが良ければ燗をつけて美味しく飲むことができます。
酒文化研究所がスローフードジャパンと共同で「スローフードジャパン燗酒コンテスト」なども行われいますが、そもそも日本酒には日本酒の時間があって、中でもお燗酒は、お燗をつける「時間」があり、猪口でお燗酒を「飲む」時間があり、当然その
間には肴を待つ「時間」があり、肴を口にする「時間」が混在し、ゆったりと流れる究極の食中酒であったはずです。たとえ電子レンジで「チンッ」してお燗酒にしても、飲む時だけはお燗酒の「時間」がそこには
存在します。
味わいの好みは人それぞれです。お燗の適温もお酒の銘柄や種類、好みによって変わります。色々試して好みを見つけるのが一番です。温度がよくわからない場合の基準は40℃前後のお風呂のお湯。お風呂の好みも熱い温いがあるでしょうが、これを基準にするとわかりやすいと思います。
日向燗 |
人肌燗 |
ぬる燗 |
上 燗 |
熱 燗 |
飛切り燗 |
30℃前後 |
35℃前後 |
40℃前後 |
45℃前後 |
50℃前後 |
55℃以上 |
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