恥ずかしいことですがネラ家を訪問するにあたり、何の予備知識もなく、ヴァルッテリーナの 名さえ定かでないという状態でした。ヴァルッテリーナはロンバルディア州の北、アルプスの 麓の町で、サッセラ、グルメッロ、インフェルノなどの畑で造られるワインはキャベンナスカ (ネビオロ)を使った味わい深いものです。 98年にはD.O.C.Gに昇格しています。コモ湖を左手に見ながら北へ、たくさんのトン ネルをくぐりぬけ、遠くにアルプスを望み雄大な景色の中を行きます。幾重にも見える山の裾 野は湖に続き、頂には雪が残っています。やがて道は東へ。景色は山に囲まれた厳しいものに 変っていきます。生活するのが大変そうな山の斜面に家が点在しています。葡萄畑は、山の麓 に見え始めましたが、私達が目指すサッセラ、グルメッロ、インフェルノの畑はまだもう少し 先。やがて目にしたそれらの畑はモーゼルを思い出させるような急斜面で、しかも小さな畑が 幾段にも連なった段々畑でした。こんな所でこんなにして葡萄を造っている、ドイツを訪問し たときと同じ驚きでした。雰囲気はコートデュローヌ北部の畑に似た荒涼とした感じ。ここロ ンバルディアの州都はファッションの都ミラノです。とても不思議。 |
ネラ家で、私たちを迎えてくれたのは、共同経営者でもあり醸造にも携わっているボイスさん。 明るく表情豊かで、茶目っ気たっぷりの話し振りについ引き込まれてしまいました。近くのレス トランで試飲、それから畑とセラーの見学、そしてネラ家のかたがたと共に食事と言うスケジュ ールを早口で説明して早速レストランへと案内してくれたのですが、レストランの入り口はクロ ーズ。慌てて電話をする姿もなんだかとってもチャーミングでした。 |
さて、レストランでの試飲は、まずネビオロ80%使用の白ワイン。フレッシュでいきいきと してバランスの良いものでした。このタイプの白ワインは15年来造っているとのことでした。 なかなか面白いワインです。その後、'97ヴァルッテリーナ・スペリオーレ・サッセラ、同 ワインのリゼルヴァ'95、ソレル(ネビオロ80%・カベルネソービニオン20%)、'96 ヴァルッテリーナ・スペリオーレ・スフォルツァートと続きました。バローロ、バルバレスコ に比べると、なめらかでしなやかな印象で、しっかりとした果実味と熟成による豊かなニュア ンスはとても魅力的なものです。スフォルツァートはレチョート、アマローネと同じ造り方で、 10月中旬に摘み取った葡萄を2月中旬まで陰干し、糖度を上げます。厚みと凝縮した香りに は目を見張るものがあります。 |
畑やセラーの見学中にもボイスさんの楽しく、熱心な説明は続き、私は一気にヴァルッテリー ナ博士になれそうなほど。技術的な面のお話も興味深くうかがいましたが、この地域の葡萄の 収穫量の検査が世界に例を見ないほどに厳しい(たぶんそうすることでワインの品質を維持ま たは向上させるためだと思いますが)と言う話と、『私たちはとても貧しい産地だが与えられ たものの中で頑張って行く。ないものねだりをしても仕方ないから。』との言葉が心に残りま した。畑での労働時間は、ピエモンテ、トスカーナ、シシリア等に比べると約4倍になるそう で、そういった条件下で、おいしいワインを造ろうという情熱を感じ取らずにはいられません。 セラーでも新しい技術の研究に余念のないネラ家の方たち。今までは山向こうのスイスに大部 分が輸出されていたそうですが、これからは日本でももっともっと評価されて欲しいと思いま す。 |
ネラ家の方たちとのディナーは、地元の食材を生かしたとても興味深いものでした。前菜には ブリザオラというこのあたりで有名な干し肉。香草入りのバターをつけていただくととても美 味しく、カベルネ、シャルドネ、ネビオロから造られたと言う白ワインにもよく合いました。 |
パスタは手打ちの平面で、よく話を聞いてみるとどうも蕎麦を使っているらしいのです。黒い 花のようなものだと言うのですが、間違いなく蕎麦です。それをスイスのチーズ、キャベツ、 ポテト、ガーリックのソースであえてあるのですが、見た目よりあっさりとして美味。メイン は標高2000m高地で摘んできたハーブを使ったステーキ。そのハーブを見せてもらいまし たが、ちょっとカモミールに似てのいました。ローズマリーとその花の香りで焼いたビーフス テーキにサラダ。デザートにエスプレッソ。チーズはカゼーラというこの土地のもの。そして サッセラのグラッパ。ほどよく酔いが回るころには言葉の通じないことも忘れて打ち解けた雰 囲気になり、ネラ社長のとても可愛いおじ様ぶりにすっかりファンになってしまいました。楽 しく美味しいひと時をありがとう。GRAZIE!! |