MOSEL−SAAL−RUWER



ピースポートで代々ワインを造り続けるハールトさん一家は、私たちを暖かく迎えてくれました。

(もちろん同行の稲葉社長との長年の心の通ったお付き合いがあればこそなのですが)まず、私

たちは弟さんの案内でローマ時代の圧搾機の遺跡を見学。この圧搾機は4世紀に造られたもので

1985年に区画整理のためにハールトさん一家の畑を掘り起こしたときに発見されました。

5世紀から6世紀に戦争で破壊され埋もれてしまったものと思われるそうです。ハールトさんの

先祖は何百年もの間、下に遺跡があることを知らずに葡萄づくりをしていたことになります。

木製の圧搾機そのものは復元されたものですが基本的な構造はほんの30年前まで使われていた

圧搾機と同じだとのことでした。ローマ時代の圧搾機の遺跡は他に2ヵ所発見されています。ブ

ラウネベルガー ユッファーとエルデナー トレプヒェンですが、興味深いのはどちらも現在の一

流畑であるということ。ローマ時代からローマ人は何処で葡萄を栽培すれば、おいしいワインが

できるかを知っていたということになります。こんな歴史を感じさせてくれる場所でハールト家

のゼクトで乾杯。そのなんと美味しかったことか。遺跡見学のあと、畑を見せていただきました。

モーゼル川を見下ろす斜面の畑は美しい景色のなかにあり、あの透明感のある味わいは、この素

晴らしい自然の中でこそ育まれるのだと実感しました。お宅にお邪魔してセラー内で試飲。

1997年のアウスレーゼをはじめ、メダルを受賞している素晴らしいワインをいくつも味わい

ました。中でも、私の生まれた年、1959年のシュペトレーゼには感動しました。

(シュペトレーゼといっても実際にはアウスレーゼなのですが、この時代の法律で遅摘みしたた

めこの表示になっています。)シェリーのような香りもありましたが、酸はまだまだしっかりと

して、決して枯れたという印象ではなく、熟成感のある素晴らしいワインでした。モーゼルワイン

の底力を感じました。奥様お手製のお料理でのおもてなしや、稲葉社長が長年のお付き合いを記

念して畑を寄贈されたこと、村にはピースポートの旗が堂々とはためいてしたこと、どれも素敵

な思い出となりました。ピースポート万歳!!

   

ハールト氏を中心とした全くの家族経営の醸造所です。
ピースポートで660年以上もブドウ栽培に従事していて、1337年に最初の記録が見られま
す。葡萄畑はピースポートのみに6haを所有、ゴールドトレプヒェンの最大の所有者です。
(トリアー慈善連合組合などよりも大きい。)
ぶどう園はリースリングが七割を占め、主に、急斜面に植えられて100%純粋なリースリング
ワインを造っています。ハールト氏は、ヴィンテージや生産地域を反映した典型的なワインを造
ることをモットーとしています。

本当のピースポーター
ピースポートの村はハールトさんのお父さんの時代に川向こうのニーダーエンメルと合併されま
した。そしてニーダーエンメルに広がる平地の畑もピースポーターを名乗るようになりハールト
さんのお父さんたちはひどくプライドを傷つけられたそうです。自分たちが造る急斜面のよい畑
のワインだけが『本当のピースポーター』だと言うのです。モーゼル川には2つの橋が架かって
いました。ひとつはピースポートの人々が架けたものでもうひとつは、ニーダーエンメルの人々
が架けたものでした。ハールトさんはお父さんに自分たちがかけた橋以外は渡っては行けないと
言われずいぶん遠回りをしたことがあると笑っていました。ワイン造りへの情熱やプライドか窺
がえるエピソードです。

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