MOSEL−SAAL−RUWER



ザールブルグ、このひなびた田舎町で、モー

ゼルワインの伝統を守りつづけるワグナー氏。

いかにもドイツの頑固親父といった感じのワ

グナーさんですが、彼の造るワインは繊細で

美しい味わいです。きれいな酸と幾重にも重

なって感じる豊かなミネラル。とても満足感

のある味わいです。機械作業が不可能な険し

い斜面での畑仕事から醸造、セラー内での作

業まで彼一人で行います。
ドイツがまだ王国であったころは王室ご用達ワインだったという由緒正しい

ワイングートですが、戦争によりその規模は縮小されてしまったといいます。

地下のセラーはその歴史を語るかのように立派なもので縦50mの通路に対

して4本の60mの横道があります。暗くひんやりとしたセラーと、いかに

も戦前からのものといった感じの樽やタンク。発酵が遅れても酵母を加えた

りはしないという造り方。ワグナーのワインはここでこそ造られるといった

感じでした。翌朝、畑を見るためにザールの城跡の塔に上りました。あいに

くの天気で、もやがかかっていましたが、条件のよい斜面に位置するラウシ

ュの畑を見ることができました。畑の下は粘板岩の山で、この粘板岩からの

ミネラルがワインに豊かな味わいを与えているそうです。

モーゼルのワイン造りも、大量生産やハイテクに流れ、作業の楽な平地へと

畑が広がっていく中で、ワグナーさんの造るワインはひときわ魅力的なもの

となっています。


LIFE BEYOND LIEBFRAUMILCH
by Stuart Pigott
ザールといえばエゴン・ミュラーといわれるほどの超有名蔵と比べ、彼、
ハインツ・ワグナーの名は全く無名に近いものですが、彼ほどワイン造り
にその身を捧げている人は、世界中のワイナリーを回りましたが他に全く
会ったことがありません。畑仕事から醸造、セラー内での作業も彼自身が
行っており、彼の育てたワインは、どんな有名な醸造元と比べてもひけを
とりません。機械での作業が不可能なたいへん険しい斜面にリースリング
のみを植え、その醸造方法は頑固なまでに伝統的です。
近年、ドイツワイン生産者の間で誰もがよりクリーンなワインを造ろうと
ハイテクに走り、ワインからいろいろ複雑なエキス分を取り除いてしまう
傾向がありますが、ワグナー氏は、彼のワインの風味が弱まってしまうの
を嫌い、昔ながらの製法を守っています。彼のワインは酸が多すぎるとい
う人もいますが、彼は「もし酸を弱めたら果実味も風味も弱まってしまう
し、何よりそんなことをしたら私のワインではなくなってしまう。」と言
って全く妥協せず、まさに他の若いドイツワイン生産者のお手本となるべ
き人物といえます。このようにスチュワート・ピゴットに評されたワグナ
ー氏ですが、1987年にはワイン生産者の最高の名誉であるスターツエーレ
ンプライズを受賞しました。世界中の雑誌や、ワインライターから高い評
価を得て、今では、その需要にこたえるにはあまりに希少なワインとなっ
てしまいました。ワグナー氏のワインを皆様にご紹介できることをうれし
く思っています。

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