スペシャルトーク

スペシャルトーク

日本酒ペアリングの店「赤星とくまがい」 日本酒ソムリエ赤星慶太氏

◎赤星慶太様プロフィール

赤星慶太 氏

ワインに魅せられ、酒類業会へ。その後日本酒に開眼、1998年、酒のインポーターとして渡米。ニューヨークを拠点とし、日本酒プロモーション、セミナーなど販売促進活動を行う。数々の有名レストランに日本酒地酒をおさめ、2009年には日本酒バー「Sake Bar KIRAKUYA」をプロデュース、SAKEソムリエとしてサービスを行う。18年の米国生活をいったん中止し、自らの店をオープンするために凱旋。
2015年7月「赤星とくまがい」を麻布十番で開店。日本酒と料理のペアリングにこだわる店として人気を博している。


◎お店の基本情報

米国時代に出会った、志を同じくする友である、料理人の熊谷道弘氏、日本酒啓蒙活動をともにしていた井内博美氏の3人で店を創める。25坪数、20席数、客単価8000円、客層30代〜40代、お酒の酒類300種類、値段グラス売りは750円から。

※2017年2月5日放送 「KinKi Kidsのブンブブーン」で「赤星とくまがい」が紹介されました。
https://www.youtube.com/watch?v=Cd8cArTLxGw 


日本酒と料理のペアリングの“予約の取れない繁盛店”

編集部―
スタイリッシュで素敵なお店ですね。大人の麻布十番で、ビルの7階。隠れ家的な場所ですが、予約の取れない人気店となっています。

赤星―
ありがたいことです。最初にこの場所を選んだ時は、同業者から「芸能人や既に一定の顧客がいないのならば、別の場所の方がよいかも?」ともいわれましたが、「いや、ここで大丈夫。ここでやったる!」という直観がありました。

編集部―
お店のウリは日本酒と料理のペアリングですが、創作料理とどのように組み合わせを考えていらっしゃるのでしょうか。

赤星―
日本酒は、常時300種類ご用意していますが、ペアリングの際、私は酸にこだわって合わせて行きます。

岩中豚の角煮 フォアグラを添えて

編集部―
酸にあわせていくというのは、具体的にどのようなあわせかたでしょうか。酸といっても、クエン酸、乳酸など色々な酸がありますよね。

赤星―
はい。例えばクエン酸(白麹)を使ったようなお酒とは、秋刀魚のキモなどと合わせて提供しています。キモのタタキをソースにして秋刀魚を炙ったものに発泡感の強い辛口のスパークリング日本酒等いかがでしょうか。これはお魚にライムやレモンを絞る感覚と同じです。また穏やかな酸味のある濃醇な山廃純米系には、鴨肉のグリルソースに粒マスタードとナスのソース。地鶏のクリームソースにはクラシックな生もと本醸造系のぬる燗がおススメです。こちらは乳酸同士によるペアリングになります。

黒毛和牛の炭火焼き色々野菜を添えて

編集部―
酸と合わすこと以外のペアリングのコツは、どんなことでしょうか。

赤星―
料理と酒の“温度”を合わすことや、“ボディ”を合わせること。また、日本酒との相性の考え方としてソースの一部としての考え方もあります。そのお酒を加えることでソースとしての意味合いをつけるやり方です。例えば、カボチャのスープに合わせる場合。甘みを控えめにして麹を三倍仕込んだような濃い純米原酒で濃厚な甘さと酸のあるお酒を合わせることによりお酒の甘みとカボチャの甘みを増加させて合わせます。牡蠣にあわせるとしたらーまず、牡蠣自体が火を通そうが生であろうがまろやかで旨味があるので濃厚系のお酒を考えていきますがー 生牡蠣や生ウニ等ならちょっと硬めのお酒に仕上がる強力米との相性が抜群です。鳥取の強力米をもちいた純米や純米吟醸酒を冷酒で。カキフライの場合にはフライを割った時の牡蠣汁とお酒の温度を合わせるぬる燗で、グラタン系牡蠣ならば生もとタイプのクラシックな濃醇でなめらかな味わいのものがあいます。

海外の方への日本酒提案方法
編集部―
海外のあまり日本酒を飲みなれていない方には、どのようにアプローチしていくのでしょうか。赤星さんが渡米されたのは、約20年も前ということですよね。まだ、今ほど日本酒が輸出されていない時期に、日本酒を販売することは、草の根的な活動が必要だったのではないでしょうか?

赤星―
最初は、飲食店勤務では無く、日本酒の販促やコンサルタント活動をしていました。成果もでない自分に嫌気がさすことも。異国の地であれもできない、これも得意ではないとネガティブになりがちでしたが、短所と長所は表裏一体。応援してくれる人たちの多さ自分のネットワークの広さに気づき、思い切って懐に入って行くようになり心理的な呪縛から解き放たれ、だんだん本来の性格の「逆境に燃えるタイプ」に戻れました。それからは、自分も日本酒もどんどんアピールし、いい気運で商売もうまくいきだしました。

編集部―
日本酒をアピールするためにどのような具体的活動をなさっていらしたのでしょうか?

赤星―
自分のいたお店(Sake Bar KIRAKUYA、酔後知楽)は、お客さんの層は日本人が50%、アメリカ人30%、韓国人やアジア人が20%くらいの割りあいでした。酒セミナーは月に2回のペースで行っていました。殆どの方が日本酒初心者の方でしたがセミナーの回数を重ねるごとに日本酒への関心や魅力に気づいて頂けました。日本酒の知識先行の学習ではなく、“飲んで食べて”驚き体験を提供させていただきました。

編集部―
日本酒の奥深さ、お料理との相性の良さにびっくりされたのでは?

赤星―
お客様が感激してくれるのは、素直にうれしいですね。ニューヨーク時代に海外の女性から「本当に美味しい日本酒を教えてくれて有難う。この店の美味しい日本酒と料理に出会わなければ自分は一生ジャンクフードと炭酸飲料で過ごしていたと思う。でもこんな美味しい素晴らしい飲み物は自分の人生を変えてくれた。美味しい日本酒とそれに合う料理を今後も楽しんで過ごしていきたい」と涙ながらに言われた時に私はこの仕事と共に生きて行こうと再認識しました。

編集部―
ソムリエ冥利に尽きますね。外国の方への説明の仕方は、どのようにされたのでしょうか?

赤星―
日本酒に触れていないアメリカ人やその他の外国の方も、ワインに触れている方が興味をもって日本酒にもというケースが多いです。なので、私はその方のワインの好みから“その人の好みであろう日本酒”をチョイスするようにしています。日本酒を辛口だの甘口だので勧めるのではなく具体的な香りや風味を伝える事が大事でした。具体的には、「白ワインのぶどう品種ピノグリージョを想わせる香りと上品な甘みが口の中で広がりインパクトのある酸と苦味が口の中で重なりあう。味わいが ぎゅっと濃縮された味わいです」という感じで勧めていきます。

編集部―
そう考えると日本でもワイン専門店さんやワインバーにこそ、日本酒を導入してほしいですね。そして、これから先のインバウンド需要を考えると、日本酒専門店さんやわれわれも、ワインからの切り口でもご説明できるようになると、新しい層を開拓できますね。お店では、どのようにお酒を値付けされていましたか?

赤星―
NYでは、ほとんどの飲食店では同じ掛け率で仕入れ値に対して価格を設定していました。そのため仕入れ値が高い商品は
かなり高い価格となってしまいます。私は中価格や定番のお酒は3.5~4倍ぐらいと掛け率をよくして、大吟醸などの高額商品は2.5倍ぐらいと低めに設定します。そのため高額商品も売れやすくなりまた金額ベースは売り上げが増になります。
あとアメリカでは“ハウスSAKE”という位置づけのお酒がありました。ほとんどの日本食でハウス酒が燗酒や安酒の位置づけで提供されていますが、わたしがプロデユースしたお店はまるっきり逆でハウスSAKEこそクオリティーのよいものを使用してお店の価値をあげることにしました。その結果お客さんもここのSAKEは美味しい!!と評判になりました。

編集部―
一般的な店のハウスSAKEは、どのようなものが多いでしょう。

赤星―
NBの清酒で3.99$~4.99$ぐらいでした。私がハウスSAKEとしていたのは日本酒地酒の山廃純米あたりです。常温、冷酒、燗もすべて対応できるような酒を。売値は普通のNBより若干高めで7$50¢ぐらいです。きれいごとだけでは商売は続きませんのでもちろん損をしてまででは意味がないですが、日本酒に関しては、船便から陸上輸送まで低温管理したお酒にこだわっていたこともあり、利益は他に比べて少なかったです。でも、「あの店のハウスSAKEは味がいい!」とすごく評判になり、結果的に他の日本酒もどんどんチャレンジしていただけました。お店の売れ筋は、120mlのグラス一杯で9$ぐらいの日本酒で、高いものでは、15$ぐらいの純米大吟醸も売れました。

美味しさを増すお燗酒の提供で“悪しきイメージ”を払拭
編集部―
日本に戻られても、米国での経験がまさにいきていますね!今お店で、300酒類もの日本酒があるとのことですが、選ぶのが大変ではないですか?

赤星―
基本、ほとんどがペアリングであったおすすめや好みを聞いての提供になるのでハンドリングはしやすいです。海外の方に説明する際は、お酒のカテゴリーについてや生産地を聞かれることも多いです。ところが、日本酒の表現はあいまいなころが多い。酒類の表示制度の整備も必要とされるところでしょう。

編集部―
お酒の提供方法でこだわっていることは?

赤星―
冷酒でのサーブに関しては薄張りグラスをチョイスしています。その中でも純米系に関してはブルゴーニュ系の薄張りを使っています。ワイングラスを用いることもあります。お客様がワイン好きで日本酒を飲んだことがない場合はワイングラスで日本酒を提供すると精神的にも入りやすいようです。

編集部―
お燗酒の場合は?

赤星―
お燗酒に向く個性のあるどっしりとした生もと系にはやや厚めで大きい酒器などもお出ししています。

編集部―
お燗のつけかたは、どのようにされていますか?

赤星―
現在のお店もそうですが、アメリカ時代も基本は湯せんでの燗、錫製ちろりのサンシンのかんすけを使用しています。またそれぞれの酒に対して温度は決めております。温度計には頼りません。私は、料理ありきでのお酒の燗に注力を注いでいます。

編集部―
昔のアメリカでのお燗酒といえば、“あつあつの燗”ばかりというかんじでしょうか?燗酒=NBの普通酒であまり良くない酒、冷酒=大吟醸で良い酒という感覚ですよね。

赤星―
そうそう。他のお店はほとんどが、1升瓶を突き刺す酒燗器やキュービテナーを上に置くタイプの電気式酒燗器でしたね。
これだと、手入れが不充分で衛生管理ができていないと、最悪ですね!わたしはお燗酒も丁寧につけましたので、燗酒のまずいイメージも払拭されることになりました。アメリカでも数年前からようやく、“燗酒にしても美味しい酒”や“逆に燗酒にすることでこそ美味しさを増す酒”だのが認知されてきたと実感します。

編集部―
赤星さんのお燗酒を付けることへのこだわりは?

赤星―
料理との温度帯を一番重視しております。燗をつけるのは、今のところ基本私がお酒の特徴を見定めながら燗を管理しております。ぬる燗でお勧めするものも多いですが、例えば、無濾過生などを燗にすることもあります。その場合55度くらにあげてその後5度くらい下がって50度くらいの提供などをします。マリア―ジュ例として意外なお勧めは、“お茶づけとのぬる燗”です。こちらはお茶づけに出汁を付け加える感じです。奥能登のやさしい酒のぬる燗とあわせて好評です。「おしいい出汁を飲んでいる感じ」とお客さんから評判です。

編集部―
お茶漬けにぬる燗ですか。和食は、最後にごはんがでてきて、その前で、お酒がとまってしまうことも多いように思いますが、やはりお薦めの仕方次第なのですね。ニューヨークでは、どのようなタイプのお燗酒が人気でしたか?

赤星―
生もと系などがぬる燗としても評判がよかったです。大七の生もとや末廣の山廃なども料理と相性がいいので食中の燗酒として人気が高かったです。

新世代へのアプローチ
赤星―
今日までオープンしてから約7000人のお客様に来店してもらい色々な方々に日本酒と料理のペアリングを提供させて頂きました。さまざまな反応があり、お客様により微調整もしております。

編集部―
日本酒をかなり詳しい人でも大満足されると思いますが、逆に、知らない人こそこの店で日本酒と出会ったら、幸福ですね!チェーン店のなんだかわからない日本酒を罰ゲームとして飲まされた経験とでは、日本酒という概念が全く違ってきます!ここで出会ったら、「日本酒ってこんなにヴァリエーションもあり美味しかったの!」と驚くことでしょう!

赤星―
そうでありたいと、日々やるだけのことをしています。詳しい方にも常連の方にも、ご満足いただけるように、あれこれ新しい切り口を考えます。

編集部―
お客様は、グルメな方やマニアックな日本酒愛好家の方が多いのでしょうか?

赤星―
もちろんそういう方もいらっしゃいますが、全く違う分野から情報を聞きつけ、来ていただくお客様も大勢いらっしゃいます。お店をはじめたころは、常に最高のサービスとレストランの質を上げることばかりに固執してしまって、あるとき本来の日本酒のすばらしさを伝えるということにどこかズレが生じていると感じました。

編集部―
気づくきっかけがなにかあったのでしょうか?

赤星―
“高品質な店”、“感度の良い店”、“常に話題になる店”…と自分では、上昇志向でがんばっていたのですが、結果的には、
自分だけがスタッフの中から浮き気味になっていました。ある時、純粋に日本酒を愛し活動している方をみて、初心に帰ったというか…。アメリカで日本酒を広めようと思った熱い気持ち、日本酒に携わる仕事をしたいと思った原点を思い出しました。特別になりすぎて、普通の人が立ち寄れない店にはなりたくないな…と。

編集部―
若い年齢のお客様もいらっしゃいますか?

赤星―
はい。先日も大学生のカップルが見えました。料理とお酒のペアリングを今までやったことがないので是非奮発して、コース料理を試してみたいとの事でした。ペアリングの妙に感動して大変喜んでくださいました。

編集部―
特別の日にフレンチやイタリアンでなくこのお店を選んでくださり、大満足だったのですね!

赤星―
その時、男性の方から「赤星さん。お願いがあるのですが最後の一杯にこのお酒を飲んでみたかったのですが2人で飲むのにお恥ずかしい話お金が足りないので2人でひとつのグラスを分けていいですか?」と。もちろん私は即答で「大丈夫です!」と答えました。その後小さい声で「暫くはラーメンはお預けでお金貯めようね」と彼女が嬉しそうに喋っていました。その光景をみて私は将来日本酒を背負っていくのはこういう若い人だと確信しました。帰り際には「また来年同じ日に来てもいいですか?またペアリングの感動をお願いします」といってくださった。日本酒とは人に感動を与えるツールのひとつだと考えます。「料理がそこにあって日本酒が寄り添いそこに感動が生まれる」と思っています。

編集部―
新しい日本酒ファンをどんどん虜にしてもらいたいですね!

赤星―
はい。初めて飲まれる方へのアプローチは、「さ~て、どうやって、日本酒を好きにさせてやろうか!」と燃えて来ます。
現在若い方のアルコール離れや日本酒の消費量が減ってきていると言われますがまだまだこの様な若い方々がいる限り、
日本酒はこれからも素晴らしい飲み物として、また人に感動を与えられるツールとして広まっていくと確信しています。

編集部―
日本酒へのパッションあふれるお話を聞くことができました。増々のご繁栄をお祈りしています。本日はありがとうございました。