酔いどれんぬの簡単レシピ
第5回「夏の冷やしおでん」
冒頭に相応しくないことと存じますが、まずはお悔やみ申し上げさせていただけますでしょうか。天の戸を醸す浅舞酒造さんの森谷杜氏が7月30日逝去されました。その酒造り、地元への愛、熱心さ、真摯でありつつ、ユーモアもあり、語りつくせない素晴らしい方でした。今回、今月のお酒はこちらと決めておりまして、その際での訃報となり、献杯の気持ちと共に、森谷杜氏最後の造りのお酒を紹介させていただきます。
「天の戸 シルキー 絹にごり」です。
天の戸 シルキー 絹にごり
天の戸を醸す浅舞酒造さんは1917年創業、秋田は横手盆地の中央に蔵を構えます。浅舞酒造さんは「酒は田んぼから生まれる」を信条とされており、夏田冬蔵を掲げ、夏は田んぼで酒米を作り、冬に蔵でそのお米で日本酒を仕込んでいます。その田んぼを見ながら仕込み水での手打ちそばを蔵の中で食べるという貴重な体験ができる企画をされていたのも森谷杜氏でした。日本酒は米から、農からといち早く取り組んでおられました。
さて、シルキー絹にごりですが、こちらは先月紹介させていただきました米鶴スパークリング同様に発泡タイプの日本酒です。しかし異なるのが、シルキーの場合は炭酸ガスを添加するのではなく、瓶内二次発酵というシャンパーニュに代表されるスパークリングワインと同じ手法で自然な泡をだしています。その為泡がきめ細かでなめらか、まさに絹のようなシルキーな舌触りのお酒となっております。
グラスに注ぎますと夏の朝霧や夕立の後のサマーミストを思わせるうすにごりに、小さな気泡がきらきらと見えます。にごりのため泡がしっかりと見えるわけではないので、フルートタイプのグラスより、冷酒タイプのグラスの方がお勧めです。白桃や杏仁豆腐のようなふわっとした甘い香りがありつつ、爽やかなグレープフルーツや酢橘を思わせる酸があり、すっきりといただくことができます。日本酒度-5と数値としては甘口なのですが、白麹由来の酸や炭酸の刺激が全体をきりっと引き締め、食事との相性も良いです。使われているお米は秋田平鹿町の特別栽培米「星あかり」でして、夏の夜空を、花火を見ながら呑むのもお勧めなロマンティックなお酒でありつつ、お盆で帰っていらっしゃる方々をお迎えしながら、しっとり呑みたいお酒でもあります。
しゅわっと軽やかさがあり、お米の旨味もあるこちらに合わせたいお料理が、今月のレシピ「冷やしおでん」です。
夏の日差しを受けて栄養豊富になった夏野菜をたっぷり使った冷やしおでんは、トマトのリコピン、きゅうりのビタミンC、オクラのβカロテンで夏バテ、夏風邪防止はもちろん、夏の日差しで弱ったお肌にもよく、まさに食べる美容液です。呑む美容液の日本酒と合わせれば効果倍増です。ただし呑みすぎなければの話ですのでお気をつけください。
<材料>(2人分)
大根 1/4本
おくら 6本
ミニトマト 6個
ちくわ 2本
キュウリ 1本
水 400cc
日本酒 50cc
塩 少々
薄口醤油 大匙2杯
かつお節 一掴み
<作り方>
1.鍋に湯を沸かし、鰹節、日本酒を入れます。2分煮たら火を落とし、弱火で3分煮、火を止めます。粗熱がとれるまでおき、ざるでこします。
2.大根の皮を剥き、2センチほどの厚さに切り、隠し包丁を十字に入れます。鍋に入れ、出汁の半分を入れ、薄口醤油を大匙1杯と塩で味を調えたら火にかけ、蓋をして10分程大根が軟らかくなるまで煮ます。粗熱がとれたら汁ごと冷蔵庫にいれて冷やします。
3.キュウリをちくわに入る大きさに切り、中に詰め、一口大に切ります。オクラは分量外の塩でいたずりし、茹でます。鍋に湯を沸かし、ミニトマトを湯むきします。別の鍋に残りの出汁と大匙1杯の醤油、塩少々を加え、ちくわを5分煮ます。熱いうちに保存容器に移し、そこにオクラ、トマトを入れます。粗熱がとれたら冷蔵庫にいれて冷やします。
4.器に具材を盛り付け、ちくわの方の煮汁をたっぷりとかけて完成です。
<ワンポイントアドバイス>
1.あれば大葉や秋田名産の菊をそえても彩や香りがよくなりお勧めですし、とうもろこし、ズッキーニ、みょうが、お好みのお野菜を使ってアレンジしてみてください。
2.おくらを切って盛り付け方を変えますと、和の献立の時の食卓だけではなく、洋の献立の時にもあう一品です。また、お子様におくらを切るお手伝いをいただくと、野菜嫌いの子も食べられるきっかけになりますのでお勧めですよ。
◆稲浪理恵さんプロフィール
全国の蔵を駆け巡り年間一石の日本酒を飲む“酔いどれんぬ”こと稲浪理恵さんは、日本酒愛好家や献立検索女子に崇められるパワーブロガー。日本全国を旅し、地元食材を買い込み研鑽を重ねた独自のレシピを、SNSだけでなくリアルな日本酒の会でも提案されています。